『知的資本論』から学ぶ!! “世界を売る”ビジネススタイル

顧客中心マーケティングの好例として、私は度々「蔦谷(TSUTAYA)」を取り上げてきました。前々から、商品の並べ方や店舗の作りが顧客視点に立っていると感じていたからです。

先日、蔦谷書店の創業者 増田宗昭氏の書籍『知的資本論』を拝読しました。一読して「やっぱり、この社長は分かっているわ」と確信。そこで今回、書籍『知的資本論』を一部引用して顧客中心マーケティングの解説をしたいと思います。

 

 

「世界を売る」ということ


私が提唱する顧客中心マーケティングの特徴の一つに、「世界を売る」という売り方があります。「世界を売る」売り方とはどういうものか。これを説明する前に比較対象として、現在、商業の現場で行われている売り方をはじめに説明しておきます。そのほうが分かりやすいので。

現在、ほとんどの売り場で行われている売り方は、「分類陳列」です。たとえば、パソコンならパソコン売り場、洗濯機なら洗濯機売り場というふうに商品類別にカテゴライズされて置かれています。言ってみれば、「あなたが探している商品類はここにありますよ。この中からお好きな物をお選びください」と“探しやすく陳列”しているわけです。

一方、「世界を売る」売り方とはどういうものか。たとえば、「クリエイターなら、この商品を買いなさい」といった態度で商品を陳列する売り方を指します。クリエイター向けのパソコンやノート、鞄や服、はたまた貸し事務所物件まで、商品カテゴリーとは関係なく、世界観を軸に商品を並べていくのです。いわば、「クリエイターなら、これを買ったほうがいいですよ」と提案するわけです。

世界を売っていると、必然的に業界や業種といった垣根を超えた商品提案をすることになります。とは言え、先述したように、今ある売り場のほとんどは、商品類別にカテゴライズされた陳列になっています。「自分は○○屋」といった固定観念(呪縛)があるため、業界・業種の垣根を越えるといった発想に至らないからです。

私見を言えば、業界・業種に縛られて商品類別に陳列している時点で、それは自分(業種)を中心にした商いであり、顧客中心でも顧客視点でもありません。

これと同じことを蔦谷書店の創業者 増田宗昭氏は述べています。書籍『知的資本論』の一文を引用します。

例えばいま、書店の中の情景を思い浮かべてほしい。店内に入っていくと、まず“平台”と呼ばれる最も目立つスペースに、発売になったばかりの雑誌が積まれている。その先にあるのは、新刊の単行本だろうか。そしてその奥に出版社ごとに分類された文庫本の棚と新書の棚。旅行ガイドや参考書・辞書、コミックなどはまた別のスペースに置かれている。
まあ、こういったところが一般的な書店の売り場構成だと思うが、これをあなたはおかしいとは感じないだろうか? 例えば長い休みを前に、あなたがヨーロッパに旅してみたいと思っているとする。ではあなたは、どのコーナーに向かえばいいのだろう? 店の奥の旅行ガイドのコーナーか。しかし、新しい雑誌にもフランスやイタリアが特集されたものがあるかもしれない。いや、ヨーロッパを舞台にした小説も参考になるかもしれない。とすれば文庫本の棚もか。あるいはその地方の文化的背景を解説している本を探すのなら、新書の棚だってのぞいたほうがいいのかもしれない……。
つまりこうした書店の売り場は、顧客のことを第一に考えて構成されたものではないのだ。思えば雑誌、単行本、文庫本などといった分類は、あくまで流通側からのもの。そうした流通過程の分類をそのまま売り場に持ち込んでしまうのは、顧客ニーズを顧みていないからだと思わずにはいられない。(84-86)

 

最後の「こうした書店の売り場は~~」のくだりは、まさに私が言わんとすることと同じです。商品類別の陳列は、売り手側の都合であり、顧客の都合を考えていないものなのです。

 

 

「世界を売る」には


「世界を売る」には、一つの商品だけでは表現できません。
たとえば、「ジャズのある生活」という世界観を軸にして、それを表現する商品を売るとします。その場合、ジャズのレコードや映画、ジャズ関連の雑誌や書籍、音響機などといったものを陳列しなければ「ジャズのある生活」を提案することはできません。「自分はCDショップだから」といった認識でいると、ジャズのCDしか置けないのです。それでは、「ジャズのある生活」を表現できません。

私が提唱する『顧客中心マーケティング』の「世界を売る」の“売る”は、提案であり、表現です。一つの世界観に沿って種々様々な商品を並べて世界を表現し、「こういった世界があるけれど、君もこちらに来ないかい?」と提案(魅せる)するわけです。

私は「世界」と呼んでいますが、「コンセプト」「ライフスタイル」「生き方」と言い換えても構いません。増田宗昭氏は本書の中で「ライフスタイル」と表現しています。

数々の映画や音楽や書籍で語られるライフスタイル。それがTSUTAYAの真の商材だ。(中略)
DVD(ビデオ)、CD(レコード)、書籍を一つの店舗で同時に扱うことにもこだわった。ライフスタイルを描き出すものがそれら作品なのだし、であるならば、どれか一つが欠けても十分とはいえない。(中略)
例えばハードボイルド映画のファンなら、チャンドラーの小説だって好きだろう。そしてその主人公が好みそうなクールなジャズを聴きたいと思うかもしれない。であるのなら、一つの店でそれらが入手できるようにしよう。顧客価値を第一に考えれば、それが必然的に導かれる答えであるはずなのだ。(59-61)

 

読めば読むほど、増田宗昭氏は私と同じ世界が見えている方なんだなぁ思います。「世界を売る」は、世界を表現する商品が一つでも欠けると不十分なものとなります。もし一つでも欠けていれば、「この一角は、一体何を表現しているのだろう?」といった疑問を生じさせかねません。世界を表現する商品は多ければ多いほど良いとは言いませんが、より鮮明に世界が表現しやすくなります。

 

ここまで読んで、「言っていることは分かるけれど、それって大変じゃないの」と感じた人もいると思います。はい。大変です。世界を表現するには、表現したい世界への知見を有していないとできません。「ジャズのある生活」を表現するならば、少なからず「ジャズ」について一家言ぐらい持っていなければなりません。この点についても書籍『知的資本論』で述べられています。

提案内容ごとにゾーンを創るためには、スタッフに一般の書店とは次元の異なる高い能力が求められるということだ。例えば商品である本を棚に整理していく作業を考えたとき、これが従来の書店であれば、文庫本はそれ用の棚に入れればいい。棚は出版社ごとに分けられ、その中では著者名の五十音順に並ぶ。実に簡明だ。収納すべき本が何冊あろうと、いわば機械的に該当する場所に置いていくだけなのだから、そこに特別な能力や素養は必要とされない。
しかし、提案ごとにゾーンを創るとなったら、どうだろう?
まず、どんな提案が顧客の興味をそそるのか、どんな提案なら顧客の必要に応えられるのかということからして、考え出さなければならない。料理ゾーンであれば、“医食同源の歴史と実践に関する本を集めよう”とか、旅ゾーンであれば“芸術の面から魔都プラハを案内しよう”とかと、顧客の胸に刺さりそうな提案をいくつも打ち出し、そのテーマに沿った書籍や雑誌を集めていく。これはすでに、高度な編集作業だ。スタッフは言葉ではなくて、店舗の書棚をどう構成するかということによって、自分が提案したいことを表現する必要がでてくるのだ。
さらにそうしたゾーンのテーマを決めた後には、今度は新たに出会う本一冊一冊に関して、どんな内容なのかを吟味する必要も生まれる。そもそも、この本をこの空間に置く必要ありとするのか、あるとすればそれはどこに配されるべきなのか。機械的にこなしていける流れ作業からはかけ離れた、時間も手間も、いや、それ以上に見識も教養も求められる工程の連続なのだ。(p91-93)

 

世界を売るには、「どんな世界を描きたいのか。そして、その世界を描くには、どんな商品をどこに置き、どのような見せ方(陳列)をすればいいのか」といった表現力が求められます。これらの能力を一言で表すなら、「キュレーション力」または「デザイン力」になります。

 

 

これからは、デザインが求められる


デザインとは何もグラフィックデザインの類だけを指しているのではありません。商品の陳列によって世界(ライフスタイル)を表現(提案)するのもデザインなのです。とりわけ、こちらのデザインは戦略レベルに位置するため、グラフィックデザインよりもはるかに重要なものになります。

書籍『知的資本論』でも、やはりデザインについての記述がありました。

一人ひとりの顧客にとって価値の高いものを、探し出し、選びぬいて提案してくれる者。それがサードステージにおいては、より大きな顧客価値を生み出し、そして競争において優位に立つことができる存在なのだと、私は思う。
そして、だから“デザイン“なのだ。
なぜならデザインとは、つまり可視化するということだからだ。(中略)
提案とは可視化されて初めて意味を持つ。つまりデザインだ。提案を可視化する能力がなければ、つまりデザイナーにならなければ、顧客価値を増大させることなど、できはしない。
実際、優れたデザインとは、ライフスタイルの提案までがそこに内包され、表現されているものなのだ。(P56-58)

 

増田宗昭氏は本書で度々「これからはデザイナー時代」「デザインに疎いようでは生き残れない」といった旨の言葉を記しています。私も同感です。

これからの時代は、「世界を売る」スタイルが注目を浴びるようになるはずです。物が溢れ、何を買ってよいのか分からない時代、分類陳列は顧客に選ぶストレスを与えるだけです。一方、「世界を売る」スタイルなら、顧客は愉しみながら消費ができます。そのためには、デザインは避けては通れません。

大分引用をしましたが、本書は金言で溢れています。ぜひ、お手に取り、お読みください。あっ、できれば私の教材『顧客中心マーケティング』も買ってくれると嬉しいです。

知的資本論

 

最後に


「世界を売る」というビジネススタイルに私が気づいたのは2007年頃です。増田宗昭氏はもっと前に気づいていたようです。今回、ここまで言語化・体現化されたことは、本当に凄いと思いますし、私と同じ結論に達した人(それも有名企業の社長)がほかにいらっしゃったかと思うと、心強く感じます。

 

 

関連教材

「世界を売る」顧客中心マーケティングの全貌を解説した教材は、こちら。

 

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