いい商品、いいお店が抱えるジレンマ

私の通う歯科医院は、しつこいぐらいホームケアの指導をしてきます。そのお陰で、歯磨きに対する感度が高くなりました。毎回、2本のブラシ(平型と山型)を使い分けて歯を磨き、最後は、歯間ブラシで歯の隙間もしっかりと掃除します。私の口内にはもう虫歯菌はいないと思うほど清潔です。(いつでもキスOKです)歯科医も、「いや~、本当に綺麗に磨けているわ」と感心していました。

歯を丹念に磨く習慣が身に付いたわけですが、考えてみると、歯科医院にとって、これは良かったのでしょうか。ホームケアを覚えた私は、虫歯になる確率が減ります。当然、歯科医院に御厄介になる回数も減ります。それよりはむしろ、ホームケアの指導などはせず、患者が虫歯になってくれたほうが経済的に見て益があるはずです。

患者のためを思いホームケアを指導する歯科医院を、私は、いい歯科医院だと思います。しかし、いい歯科医院であることと経済的に益を得られることとは必ずしもイコールにはなりません。むしろ、損を招くかもしれません。これは、ジレンマです。

もう一つ似た話があります。
私は革靴を定期的にメンテナンスします。分からないことがあれば、靴を購入したショップに赴き、メンテナンスの仕方を教わります。時には、修理にも出します。ショップ店員からは、「いつも大切に使っていただいてありがとうございます。長持ちすると思いますよ」などと言われます。今私が履いている革靴で、一番長い付き合いのものは、10年になります。
これも考えてみれば、手入れもそこそこに、さっさと履き潰してくれたほうがショップとしては経済的に益があるはずです。

映画「キンキ―・ブーツ」に、こんなワンシーンがあります。
品質にこだわる靴メーカーの四代目社長のチャーリーと、卸会社の責任者ハリーとの会話です。

ハリー 「スロバキア製の靴だ。いくらだと思う」
チャーリー 「ハリー、うちは一生ものだぞ。これは10カ月しかもたない」
ハリー 「そうさ。好都合だろ」

このシーンは、品質が悪くて長持ちしない靴のほうが益になると示唆しています。

商人は、お客様が喜んでくれる商品を提供してお金儲けをしていると思いがちです。しかし、本当にいい商品を提供するとお金儲けが難しくなるのです。こうしたジレンマは、各業界にあると思います。例を挙げ出したらきりがないでしょう。

誤解しないでください。私は「悪い商品(サービス)ほど儲かる」と言っているわけではないのです。「いい商品(サービス)とお金儲けは、必ずしも一致しない」と言っているのです。

以前のコラムにも書きましたが、専門家になればなるほどジレンマが生じます。同様に、お客様への価値を追求しても生じます。何かを突き詰めれば、必ずと言っていいほどジレンマは生じるものです。

ジレンマを緩和させる方法はいくつかあります。冒頭に紹介した歯科医院も、定期的なメンテナンスを推して、来院回数を稼ごうとしていました。しかし、根本的な解決をしたわけではありません。おそらく、根本的な解決なんてないのかもしれません。ジレンマの先にあるのは、「解決」ではなく、「選択」なのだと私は思うのです。

追伸
私がジレンマについて考えたのは、10年前です。大手化粧品会社の経営者の講演を受講したのがきっかけでした。経営者はこう言いました。「もし、1回使用するだけで肌が綺麗になる化粧品があれば、お客様にとってメリットがあるかもしれないが、ビジネスとしては成り立たない。何度も使用して、肌が綺麗になるからビジネスになる」。この言葉を聞いて、商売とは、なんとも奇怪なものだと思いました。

 

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