データ主義は、未来を予測できない

昨今、データ分析や統計学が注目を集めています。WEBの世界でもデータ分析は必須です。私たちはデータから多くの情報を知り得ることで、過去や現状の欠陥部分を知ることができ、何かしらの改善策を打つことができます。今後も先、データ分析は私たちのビジネスに多大な恩恵を与えてくれるでしょう。しかし、欠点もあります。それは、「未来を予測することはできない」という点です。

書籍『なぜデータ主義は失敗するのか?』(著者 クリスチャン・マスビュア & ミゲル・B・ラスムセン)の帯にはこんな一文があります。「データが語っているのは“過去”から“今”のこと。“未来”を見通すには“人の行い”を理解することこそが大事な時代」(川島 蓉子氏 推薦文)と。

どういうことなのか、本書の第一章にある一つのエピソードを基に解説していきます。本書の一章の書き出しは、スポーツシューズメーカーの上席副社長が会議中に発した一言から始まります。

「ヨガはスポーツなのか」。(p23)

この問いは、一見、スポーツシューズと関係なさそうな問いですが、実は核心をついています。

今や、世界的なヨガブームです。日本でもヨガを始める人が多くいます。では、何のためにヨガを始めるのでしょうか。そう、健康のためです。健康維持や増進を目的に始める人が多くいるのです。ヨガがスポーツならば、市場におけるスポーツの役割、スポーツをする目的が大きく変わったことを意味しています。

どういうことか。それまでスポーツ用品メーカーは、市場のニーズを「勝利をするため、より速く、より強く」であると認識していました。「健康のためにスポーツをする」という観念がなかったのです、もし、スポーツ用品メーカーが、この“変化”に気づいていなければ、市場とズレた商品提供やメッセージを発することになります。実際、本書に出てくるスポーツシューズメーカーは、しばらくこれに気づくことができませんでした。一部引用します。

勝利こそスポーツ業界全体の文化的DNA、すなわち存在理由であり、それにはもっともな理由がある。50年間、競技における優位性を売り込むことによって、市場シェアと収益の驚異的な成長がもたらされてきた。ナイキ、アディダス、ブーマ、ニューバランスといった企業は、いずれも1980年代から規模が4倍以上に拡大している。1990年代終盤まで、この業界の境界線と提供価値は比較的はっきりしていた。役員が製品やプロセスを調整したり改善したりすることはあったが、「パフォーマンスの向上イコール勝利」という基本的な等式があらゆる意思決定に浸透していたのだ。何か問題が生じたら、それは単にそのロジックからステップをいくつかさかのぼって原因を見つけるだけの話だった。
ところがその後、不意にすべてが変わった。製品の技術的な機能が変わったわけではない。変わったのは購入者だ。人々の行動が変化したのだが、この理由は誰にも分からなかった。2003年にあの上席副社長はその変化を感じ取っていた。ヨガがスポーツだとしたら、スポーツ用品会社はスポーツする人のほとんとが勝利を目的としていないという可能性を考慮する必要がある。それからわずか9年後の2012年には、ヨガ用やジム用などのフィットネスウェアがスポーツ用品市場全体の半分以上を占めるようになっていた。(P26-27)

データ分析をいくらしても、人の心の動き、それに伴う「人の行い」の変化は読むことができません。データ上の数値が変化していることは分かりますが、「なぜ、変化したのか」をデータは教えてくれないのです。それを考えるのは人間です。そして、人の心や行いによる「変化」を捉えたり、予測する思考を「人文学的思考」や「センスメイキング(意味を見出す)」と本書では呼んでいます。

MacやiPhoneを開発したジョブズ氏は、データ分析をして商品を開発したのでしょうか? 2017年に大ヒットした映画『君の名は。』の監督・新海誠氏はデータ分析してこの映画が当たると予測して作ったのでしょうか? いずれも違いますよね。人の集合体(市場)の動きや空気を感じ取り、商品や映画を作り上げたのです。データから未来は読めません。未来を読む、当てるのは「人文科学的思考」なのです。

データ分析と人文科学的思考、どちらが優れているかという話ではありません。特長が違うため、対象によって使い分けていくものなのです。喩えるならば、左脳(論理力)と右脳(創造力)のようなものです。どちらか一方だけではなく、両方の能力を高めていく必要があります。そしてこの二つの能力があれば、データ分析だけではなく、データの裏にある心の動きも読むことができます。そうなれば、過去から今だけではなく、未来をも見通せるようになるのです。

本書を読んでいて、5年前に読んだ書籍を思い出しました。『1年で駅弁売上を5000万アップさせたパート主婦が明かす奇跡のサービス』(著者 三浦 由紀江)です。引用しますね。

効率よく発注するには、ABC分析が必要だと、机にふんぞり返って偉そうに言う人がいますが、私はデータを分析しただけでは発注業務はうまくいかないと確信しています。
たとえば、データでは連日売り切れしている商品があるとします。
データで判断する人なら、「毎日売れ切れているのだから人気商品だ」と思うでしょう。「もっと売れるはずだ」と、発注数を増やすかもしれません。
でも、現場で売っている人にしてみれば、「本当は売れない商品だけど、仕方なく一生懸命、やっとの思いで売りきっている商品」かもしれないのです。(中略)
私は新幹線ホームの発注を担当している会社スタッフの男性に、「牛肉弁当は売れないよ」と言いました。
「三浦さん、そんなこと言ったって、データ上では売れていますよ。実際、廃棄になっていません」。
「当たり前じゃない! 私が一生懸命売っているんだから。そりゃあ廃棄になっていないでしょう。でもね、毎回牛肉弁当だけが売れ残って回ってくるんだよ。だからこの商品は少なくしてね」(中略)
データはもちろん必要ですが、現場をきちんと見ない限り、販売の本質は見えてこないのです。

データ分析だけに捉われず、その背景にいる「人」にまで、考え巡らせるようにしたいものです。

 

 

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