「1万時間の法則」を真に受けるな

「世界レベルのプロは“1万時間の法則”を実践している」といった話を耳にしたことはないでしょうか。1万時間も投資すれば、世界レベルの一流になれて、社会的な成功を収められるような気がしますよね。でも、これは気がするだけで事実ではありません。今回は、「1万時間の法則」について批判記事を綴りたいと思います。

 

 

「スキル=時間」では測れない


「1万時間の法則」とは、マルコム・グラッドウェル氏が、書籍『天才! 成功する人々の法則』で広めた概念です。各分野のプロを調査した結果、プロは約1万時間におよぶ練習を積み重ねていると主張しました。「時間=技量」といった単純明快な理論がウケたのか、この言説は世に広まり、大勢の人が知ることとなりました。しかし、物事はそう単純ではありません。

書籍『PEAK PERFORMANCE』(ブラッド・スタルバーク/スティーブ・マグネス)では、思いっきり1万時間の法則を否定しています。

1990年代前半、行動科学者のK・アンダース・エリクソン博士は、人はいかにしてエキスパートになるのか、その過程を調べた。
当時はもっぱら、経験が決め手だと考えられていた。つまり、時間をかけて練習すればするほど、腕も上達するという考えだ。(中略)
カルフォルニア大学バークレー校の物理学の教授たちと学生たちに初歩的な問題を解いてもらったところ、教授たちの成績が学生たちに及ばないことが何度もあったというのだ。
(中略)
エリクソンがこのマイナーな研究についてさらに調べたところ、驚くような結果に何度も遭遇した。
たとえば、精神分析医は経験年数が多いからと言って、患者への接し方もうまいとは限らなかった。また、多くの内科医は、経験を積むに従ってレントゲン診断での誤診が増えると指摘する論文もある。
(中略)
調査の対象となったどの分野(ワインのテイスティングから資産運用に至るまで)でも、トップレベルとその他を隔てる決定的な要素は経験ではなかったことになる。
(中略)
さまざまな角度から検証した結果、エリクソンは経験年数が長いほど専門知識があるとは限らないという結論に至った。(p74-75)

ここからエリクソン氏は、バイオリニストの育成期間として定評のあるベルリン芸術アカデミーの門をくぐり、バイオリニスト専攻の生徒たちを調査します。優秀な生徒とその他の生徒たちの日々の過ごし方を追いました。練習時間はほぼ全員が50時間と大差はありませんでしたが、練習の“あり方”に大きな違いがあることを発見します。ここからまた引用をします。

生徒たちはどう練習しているのか?
彼らの練習には、驚くほどの違いがみられた。
優秀な生徒たちは、目標を定め、それを達成するためにかなりの時間を割き、おまけに完全に集中してその練習に取り組んでいた。気を散らすものはすべて排除。形だけの練習もめったにやらない。トップレベルの生徒たちは、他の生徒たちよりもはるかに「意図的な」練習をしていた。
(中略)
専門知識は、何時間やれば身につくというものではない。その時間で何をやったかが重要なのだ。練習しても完璧にはならない。完璧な練習が完璧を生み出すのだ。(p76-77)

私はこの一文を読んで漫画『はじめの一歩』に出てくる鴨川会長の言葉を思い出しました。

キサマらを強くするのは毎日の積み重ねじゃ。じゃが逆もまた然り!毎日の積み重ねがキサマらを弱くする!漫然と日々を過ごすなっ。四六時中ボクサーであるコトを自覚しろ。自分に足りないモノ必要なモノを常に考えて行動せよ!!

重要なのは、時間の「量」ではなく「質」。惰性で練習するのではなく、考えながら練習し、練習の質を求めた者だけが技量を高められるのです。万膳に1万時間練習するよりも、たとえそれよりも少ない時間であっても、意図を持って練習したほうが身になるのです。

少し余談になりますが、私は以前から「文章力の鍛錬は、量を書いても身にならない」と主張してきました。量にフォーカスしてしまうと、「質」に目がいかず、駄文を量産する技術だけが身に付くからです。詳しくはこちらの記事で書いています。ご興味があれば、一読ください。「文章力上達の秘訣は、「量」ではなく「質」を意識すること

 

続いて、別角度から「1万時間の法則」を否定していきます。

 

 

1つのトップスキルを持った人材よりも
複数のプチスキルを持ったレア人材


1万時間を投資して「トップ人材」になるよりも、数百時間を投じたスキルを複数かけ合わせた「レア人材」のほうが今の時代に適しています。1つしかないスキルは、いつ何時AIに取って替わられるか分かりません。複数のスキルを持ち、それらのスキルをかけ合わせてオリジナリティある人材となったほうが、AIによるリスクを軽減することができます。

それに、経営者の目から見ても複数のスキルを持った人材のほうが使い勝手がいいのです。以前、建設業の経営者がこんなことを言っていました。「建設業の作業員は、1つのスキルだけ突き抜けていても使い勝手が悪いんですよ。建設業には色々な資格があって、複数の資格を持っているほうが使う側からすると都合がいいんです。給料を多めに払ってでも複数の資格を持っている作業員を雇用したいんですよ」。

建設業では1つのスキルだけを極めても、収入を上げることは難しいとのこと。それよりは、現場で求められるスキル(資格)を複数持っているほうが収入アップへの近道になるそうです。

もう1つ参考例を紹介しましょう。
WEB記事『元フリーライターの編集者3人に聞く、記事を書いてメシを食べてく方法』に、次の質問があります。「仕事を頼みたいライターさんの条件とは?」。その答えが先の建設業者の話と同じ内容なのです。

えーと……書くだけじゃなくて、別のことができる人は重宝されると思います。たとえばインタビューとか写真の撮影とか。著名なライターさんにインタビューした時にも、「仕事を依頼されやすいのはインタビューのできるライター」だとおっしゃってました。

ひとつの記事にかけられる予算も限られているので、ひとりでライターもインタビュアーも、カメラマンもこなせる人は編集者としても依頼しやすいと思います。(田中千晴)

ライター業とは少し違いますが、私も広告や販促物のコピーライティング業を営んでいます。この業界では、コピーだけ納品している人も多くいますが、デザインのスキルがあれば、デザインも合わせて納品できます。当然、報酬も高くなります。このように、周辺にあるスキルや知識をかけ合わせることで収入アップに繋がるのです。

 

以上の理由から、「1万時間の法則」は真に受けないほうがいいですよ、と言いたいです。

 

 

 

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