評価経済社会を、映画『この世界の片隅に』の成功から読み解く

映画『この世界の片隅に』をご覧になったでしょうか。私は2度映画館に足を運びました。近年稀に見る、最高傑作の映画だと思います。

『この世界の片隅に』は、各所から高い評価を得ています。日本アカデミー賞では、最優秀アニメーション作品賞に輝き、第90回キネマ旬報ベスト・テンでは1位を獲得、第71回毎日映画コンクールでも日本映画優秀賞を受賞しました。そんな『この世界の片隅に』ですが、実は、上映前から高い評価を得ていたのです。

監督の片渕須直氏が原作を読み、感銘を受けたのが映画化のきっかけになりました。しかし、簡単には事は運びませんでした。前作(マイマイ新子と千年の魔法)が大赤字を出していたこともあり、スポンサーがなかなか付きません。そこで、プロデューサーの真木氏は、クラウドファンティングでの資金調達を考えつきます。結果的には、総勢3,374名のサポーターが付き、39,121,920円を集めることができました。この資金が映画制作の一部として賄われ、また、パブリシティ(PR)としての役割も果たしました。

そして2016年11月、ついに映画が上映されます。しかし、大がかりなPRもなかったため(できなかった)、上映してくれる映画館は全国に63館しかありませんでした。そんな中、観客から好評を博し、SNSを通じて口コミが拡散。テレビでもたびたび取り上げられ、各所の映画館から上映の申し出が相次ぎます。最終的に上映館数が350館を突破するまでに至ったのです。

映画『この世界の片隅に』の成功は、「評価経済社会」を表す好例だと私は見ています。片渕監督が原作を高く評価したことから映画作りが始まり、原作を評価している人が大勢いたからこそ出資が集まったのです。そして、映画が高レベルなものに仕上がり、SNSで拡散され、上映館数の拡大にまで発展したのです。

映画『この世界の片隅に』に限らず、これからのビジネスは「評価」が重要なキーワードになります。Amazonや楽天のレビュー(評価)が売れ行きを左右することはご存じの通りですが、その他、評価が高ければ、SNSで拡散され、話題を呼び、お客様が勝手に集客をしてくれるようになります。検索エンジンも同様です。ユーザーの「評価」が高いものが上位表示されるようGoogleはアルゴリズムを組んでいます。「評価」は、無視できない存在となりつつあるのです。

 

 

評価とは、商品だけの話ではない


「評価が大事なのか。じゃ、良い商品を作らないといけないな」という考えに至るのは正しいです。ですが、評価の対象は何も商品だけではありません。経営者をはじめ、事業の目的や売り方、労働環境も評価の対象となるのです。いくら良い商品を提供していたとしても、労働環境が悪ければ、一気に評価は下がります。ユニクロやワタミがいい例です。こういった評価もSNSでは拡散され、ひいては、売上にも影響を与えるようになります。

SNSが無かった時代は、商品が劣悪でも、マーケティングさえうまければ、そこそこ儲けることができました。悪評が広まる前に儲けて、売り逃げするわけです。評価が広がりやすい昨今、騙し売りできる期間は、圧倒的に短くなりました。また、悪徳商法をした人の評価は延々とネット上に残るため、次の商売をする際、確実に足かせとなります。評価の対象は、企業だけではなく、人も含まれていることを忘れないでください。

最近よく目にする、評価を逆手に取った交渉術があります。
フリーランスが、不当な扱い(未払いなど)をした企業の名前をブログで公表して糾弾する光景です。これは効果テキメンです。こうした分かりやすい悪を糾弾する文化がSNS(特にTwitter)にあるため、多くの人が拡散します。糾弾したブログ記事は検索上にも残るため、その企業はフリーランスに謝罪して消してもらうよう要請せざるを得ません。大人の対応としてどうか、といった疑問は残りますが、不当な扱いを公にする人は今後も出てくるでしょう。翻って、自社の取引先や顧客にする対応も公にされる可能性があると、肝に銘じておいたほうがいいでしょう。

逆も然りです。冒頭の『この世界の片隅に』のように、高評価が得られた作品や企業は、SNSやブログで評価が広がり、それらを見た人は、その会社を信用して商品を買ってくれるようになるのです。評価経済社会は、良くも悪くも評価が拡張する社会なのです。

 

 

「評価」には、交換機能がある


評価経済社会の面白い点は、評価が売上に寄与するだけではなく、評価がお金をはじめ、商品やサービスと交換できるという点です。

「評価経済社会」という言葉の生みの親、岡田斗司夫氏が記した『評価経済社会・電子プラス』(著 岡田 斗司夫)に、こう記されています。

貨幣経済社会とは、貨幣を仲介にして「モノ」「サービス」が交換される社会です。同じように「評価」を仲介として「モノ」「サービス」、そして「カネ」すらも交換される社会。それがこれからの社会であり、いま私たちの足下で起きている社会変化のポイントなのです。

なぜ評価が、モノやサービス、お金と交換することができるのか。それは、お金よりも評価のほうが抽象度が高いからだと私は考えています。そもそも、お金が商品やサービスと交換できるのは、商品やサービスよりも抽象度が高いからです。そのお金よりも抽象度の高いもの(つまり評価)が現れれば、お金さえも交換可能になるのは必然です。

 

この抽象度とお金の関わりについて、2冊の書籍から引用して解説します。まずは、『無理の構造』(著 細谷 功)の一文を。

具体と抽象の自由度の違いが私たちの生活に決定的な影響を及ぼした例が「お金」です。「お金」というのは、人間が生み出した最も重要な抽象概念のひとつですが、このお金の発明によって、もともと対象性があったはずの「物々交換」(具体と具体)が「モノとカネ」という「具体と抽象」の交換である「売買」にかわることによって、交換範囲が一般化され、飛躍的に拡大したという変化とともに、交換行為そのものを非対称にするという大きな変化をもたらしています。
この交換の非対称化によって、売買には「上下関係」が発生しました。つまり、通常「買う側」(お客)のほうが「売る側」(お店などの販売・提供者)よりも優位な関係になります。「接客する」という行為が発生するのもこの非対称性によるものです。(p34)

 

続いて、『未来を先回りする思考法』(著 佐藤 航陽)の一文を紹介します。

本来、貨幣は価値という実態が存在しないものをやりとりするために便宜的につくられた概念に過ぎませんから、電子化は容易です。(中略)
そして、価値がデータ化され、その保存手段が多様化すれば、人々は「貨幣」そのものではなく、その根源である「価値」そのものを重視し始めます。貨幣は価値の媒介手段のひとつにすぎなくなるからです。(中略)
たとえば、SNSは今まで定量化できなかった「他社からの注目」という価値を数字に換算することを可能にしました。多少極端な例ですが。貯金は0円でも、多くの人に注目されていてTwitterのフォロワーが100万人以上いる人であれば、事業を始めることは不可能ではありません。SNS上で仲間を募り、クラウドファンティングを通じて資金を募り、わからないことがあればフォロワーに尋ねて知恵を借りることができます。彼は「他社からの注目」という貨幣換算が難しい価値を、いつでも好きなタイミングで人、資本、そして情報という別の価値に転換することができるのです。(P133-134)

要約すると、ネットの普及によって「評価」が可視化(数値化)されるようになった。そのことにより、評価が、お金をはじめ、モノやサービスと交換可能になりつつある、というわけです。

 

先述したように、お金と評価であれば、私は評価のほうが抽象度が高い概念だと考えています。だからこそ、お金と交換することができるわけです。分かりやすく「図」で表してみました。

評価とお金は、どちらも「交換機能」を持っていますが、評価はお金ほど自由度がありません。交換する際、基本「お願い」になるからです。ですが、お金と決定的に違う利点があります。それは、いくら交換しても減らないという点です。評価が下がらないお願いをしている分には、いくらお願いしても構わないわけです。

 

 

個人レベルで起きている評価経済社会の事象


「評価さえあれば、お金を介さずに物やサービスを享受できるだけではなく、お金さえも集まるようになる」というわけですが、イマイチ、まだイメージできない人もいるかと思います。

書籍『魔法のコンパス』(著 西野 亮廣)から、具体例を一つ紹介します。

僕は、お金を「信用の一部を数値化したもの」と定義しています。
僕が普段遊んでいる連中の一人に、「ホームレス小谷」という男がいる。(中略)
ホームレス小谷の生き方は実に単純だ。インターネット上に自分の店を出し、売るモノがないから「自分の1日」を売り、それを収入源にしている。買われたら何でもする。草むしりでも、引越しの手伝いでも、ヌードモデルでも、何でもする「なんでも屋」。(中略)
丸1日働くのだから、普通なら7000~8000円、または1万円という感じで“労働時間相応の値段”に設定しそうなものだが、このホームレスは徹底して50円を貫いている。(中略)
実は、ここにカラクリがあって、たとえば草むしりの依頼で朝から昼まで草をむしったとする。そうすると、購入者は「これだけ働かせて、さすがに50円は申し訳ないな……」という気持ちになり、ホームレス小谷にご飯をご馳走する。(中略)
最初の値段設定を1万円にしていたら、これは生まれない。
ホームレス小谷は、この調子で毎日自分を50円で売り続け、毎日毎日、お金ではなく「信用」を重ね続けた。(中略)
ホームレス小谷がクラウドファンティングで結婚式の開催費用を募ったところ、開始早々、モーレツな勢いで支援が集まり、なんと3週間で250万円もの大金が集まった。(中略)
信用の面積がバカみたいに大きいから、数値化(お金化)した時の額が信用の面積に比例して大きくなる。(p83-86)

 

最後にもう一つ事例を紹介します。家入一馬氏のTwitterで起きた出来事です。

家入  ツイッターで昨年、「村を作りたい」とかつぶやいてた頃に、熊本で山を持ってるおばあちゃんが、100万坪の山あるけど使っていいよ、みたいなこと言われて。で何回か見に行ったんですけど、ホントの山なんですよね。整地もされてない。あと電波もきてないし。水源はいくつかあるんですけど、水もないし電気もないし。

家入  「山ゲット!」とか書いてたら、早速なんか太陽光発電で儲けようとしている人たちから連絡があって。「一部でいいから太陽光パネル置かせて」みたいな(笑)。いくら払うからみたいな(笑)。結局なしになりましたけど。(引用元 グロミー http://logmi.jp/9454

評価が集まっていると、「これ欲しいな!」と願望を発したら「それなら私が持っているよ。使っていいよ」と言ってくれる人が出てくるのです。山一つ買おうと思ったら、結構なお金がかかりますが、それが無料で使用権が得られてしまう。こういった面白い現象が評価経済社会ではたびたび起きるのです。

まだ納得できない人もいるかもしれませんが、「評価経済社会」というワードは頭の片隅に置いておいてください。「これ、評価経済的な事象だな」といったものが、今後も増え続けるはずです。

 

 

まとめ


① 評価は、売上に大きな影響を与えるようになった。
評価は、商品だけではなく、活動や人も含まれる。
② 評価は、お金、サービス・情報などと交換可能になった。
お金よりも評価のほうが抽象度が高く、可視化できるようになったため。

これらの現象を「評価経済社会」と呼ぶ。

好む好まざるに関わらず、誰もが評価経済社会の中にいます。そして今後もその影響が大きくなってくるでしょう。社内社外に関わらず、評価を常に意識してビジネスをしていかなくてはいけません。上手く「評価」を高め、活用できれば、貨幣ではできなかった(コストがかかりすぎる)こともできるようになります。

 

 

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