「好きなことを仕事にしたい人」が見落としている2つの現実

「好きなことを仕事にしたい」と願ったことは誰しもあるはずです。確かに、それが出来たらどんなに素晴らしいことか。好きな仕事なら努力できますし、上達も早いでしょう。なにより、仕事が楽しいはずです。能率的にも精神的にもいいことばかりです。何かの分野で成功した人の中には「好きなことを仕事にすれば成功する」と言う人もいます。

しかし残念なことに、この言葉は「生存バイアス」(心理学用語)です。

[生存バイアス]とは

ある特定分野の一部の生存者(成功者)を挙げて評価する態度を指す。少数派である自身の成功、または他人の成功を例に他人に押しつける行為はまさにそれである。たとえば、年に一度20代の女性1万人が応募するオーディションで優勝を果たした人が「諦めなければ夢は叶うわ」とコメントする。たとえ、今回優勝を逃した9,999人が夢を諦めなかったとしても、99.9%は挫折することは自明である(20代のうちにしか応募できない年一度のオーディションだから)。しかし、成功者自身も夢を追う人も、何の疑いもなくその言葉を信じてしまう。これが生存バイアスだ。

世の中は成功者(生存者)にだけ発言が許されているため、脱落者の意見は表に出てくることは少ない。そのため、少数(生存者)の意見が多数(脱落者)の意見よりも多くなるという奇怪な現象が起きる。成功本やビジネス書、広告の体験談などはまさにそれだ。

 

“好きなことを仕事にしたい人”が見落としている現実が二つあります。

一つ目は、自分本位の姿勢であること。
商売の本質は、「人が欲しているものを提供する」です。決して、あなたが売りたいものや好きなことを人に売りつける業ではありません。得てして“好きなことで起業する人”の多くは、この“欲する人”の存在を見ようとしません。それよりも、自分の「楽しい」「やりたい」という気持ちを優先して事業を始めてしまうのです。

私はカフェや居酒屋が好きで、お店巡りをよくしています。ただ、残念なことに、1年もすると何軒か潰れています。皆さんの地元にあるお店も同じではないでしょうか。飲食店の廃業率は、新規出店から3年以内に約7割というシビアな職種です。カフェなどを始める人の多くは、「自分の好きなことを仕事にしたい」「こんな雰囲気のお店を持ちたい」と思い、起業します。まさに「好きなこと」で起業しているわけです。その結果は、今述べたとおりです。

 

二つ目は、あなたが好きな仕事はみんなが好きということ。
「好きな仕事(職業)」は、実は偏ります。たとえば、声優やイラストレーター、ライターやデザイナー、美容師やスタイリストなど、憧れ職業に人が集中するのです。最近では、コンサルタントやコーチも人気ですよね。当然、競争が激しくなります。しかも、憧れ職業を志す人は仕事が好きな人たちです。つまり、好きな人同士が凌ぎを削る世界なのです。

書籍『声優魂』(著者 大塚 明夫)には、声優を志す人が多すぎるため、ほとんどの人が仕事にありつけないと述べています。書籍『漫画貧乏』(著者 佐藤 秀峰)でも、「仮に労働基準監督署が漫画業界にメスを入れたとしたら、漫画業界は一瞬で崩壊するでしょう」と述べています。これが、好きなことを仕事にしようと志した人たちの現実です。憧れ職業は、大体どこも似たような状況です。

供給者が掃いて捨てるほどいれば、労働条件は悪くなるのは必然です。低賃金で働かせても、目をキラキラさせて仕事をしてくれる補充要員はいくらでもいるからです。これが「好きなことを仕事にする」という世界です。

 

「好きなことを仕事にすれば成功する」という言説を信じる人は、好きなことをしたいのではなく、本当はただ成功したいだけです。好きなことがある人は、成功するとかしないとか考えず、好きなことをやり続けます。それが「好き」というものです。ですから、「好きなことを仕事にすれば成功する」という言説は、本質的にズレています。

とはいえ、好きなことを仕事にすることは別に悪いことではありません。ただし、先述した二つの現実を踏まえたうえでその道を選んでください。決して、甘い言葉に踊らされて、好きなことを仕事にしてはいけません。「好きだからこそ、どんな試練でも受け入れられる」という覚悟が必要です。このコラムをきっかけに、自分の進むべき道を冷静に考えていただければ幸いです。

 

PS

「好きなことで起業しよう」と提唱する人は、商売が上手いなと思います。なぜなら「好きなことで起業したい」と考えている人は多い(市場が大きい)からです。現実的な統計データなどは見せず、甘い言葉を用いて夢を見せるほうがお金になると分かっているのです。
※総務省・経済産業省の「平成24年経済センサスー活動調査」によると、建設業、小売業、宿泊業、飲食業の廃業件数は、開業件数の倍近く多いです。

好きなことを仕事にしてもいいです。その場合は、主観的にならず、冷静に市場と競合を分析してください。好きなことで起業するのは楽しいですがラクではないのです。

 

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